私は2011年、ちょうど東日本大震災が起きた年に、城南職業能力開発センター木工技術科を卒業しました。
旧称は、品川高等職業訓練校、もしくは品川技術専門校でご存知の方は多いと思います。そこの木工技術科は通称シナモクと呼ばれていまして、開校は昭和15年と歴史は古く、木工技術科は開校からある科目だそうです。
何をやるかと言えば、平たくいえば木工所に入る為の基礎中の基礎を学べる学校となります。
全国にある訓練校ではその地域の特色を踏まえた指導が行われているようでして、品川では江戸指物(えどさしもの。釘を使わず組み立てるのが特徴。デザインは無骨)を源流とした指導方針で、ノミ、カンナを使った無垢材の手加工をメインとした製作を学べます。

しかし、一年で学べる内容では現場で即戦力、とはいかず、マラソン選手で言えば、走り方を学ぶというよりちゃんとした準備運動のやり方を学べる、という感じでしょうか。
私は訓練校の木工科に入校する生徒の中では珍しく、はじめから無垢家具至上主義ではありませんでした。
合理的、工業的なフラッシュ家具、NC加工などに興味がある、振り返ってみてもあまり同窓にいないタイプだったように思います。紙みたいな薄い木を使って無垢っぽくみせる、ってどういうこと?中が空洞?どういうこと?とずっと思っていました。
人によっては「まがいもの」「ニセモノの家具」と呼ばれるような家具は自分にとって興味をそそられるものでした。そういう理由もあって、カリキュラム後半の機械加工やNCの授業はとても楽しく、また、どんな機械加工でも手加工の延長線上でしかない、という考えにも至りました。

そうなのです。どんな高精度な機械も、使う人間が加工を理解していないとびっくりするくらい精度は出ません。振り返ってみればこの一年で学んだ「奥義と呼べるもののひとつ」として、「基準、基準面」の考え方があります。直線や直角、上面とか右端とかもそうですが、「ある点」から「どっち側」を「どれくらい」「どうしたい」か、を積み重ねて家具製品は完成します。
DIYはそれなりにやっていたつもりではありましたが、なんとなくやっている、できている作業も言語化し体系立てて整理し頭に叩き込むことでしっかりと身につきます。あまりにあたりまえの作業なのでそのうち意識するというより感覚に近いものになっていきますが、最初は「目から鱗が落ちる」思いでした。
教育機関で木工を学んでみて思ったことは、すべて理詰めである、ということです。
恥ずかしい話ですが、以前の私の木を扱う仕事の印象は、金属などに比べ、感覚、雰囲気的なものが重要だろう、と漠然と思っていましたが、大間違いです。
感覚や雰囲気など、木工未経験者には必要ありません。中級者以上になってみれば感覚的な部分や感性などが介入する余地はあるかもしれませんが、初級者が行う作業においてほぼすべて、作業ひとつひとつに意味があり、物理的な原理、法則があり説明できます。

のちに実感することになりますが、現場や工房の実務においてひとつひとつの作業を説明などしてくれません。時間=コストだからです。学校においてはそれらをわかりやすく、時にホワイトボードを使いながらしっかりと理論立てて説明していただける環境のなんと有益なことか。
私にとっての「奥義と呼べるもののひとつ」は数十に上り存在しますが、その人のレベルによっては数百、数千とあることでしょう。日本の木工の綿々と続く歴史と技術の集大成のキワのキワ、入り口を覗くのなら、訓練校はおすすめできると思います。